2014年2月11日火曜日

【コラム】 「今、建築士会に入会するメリットは」

今、建築士会に入会するメリットは?

2014.02.03 中村 重陽(神戸支部・中村×建築設計事務所)



減少する若者の入会者数


 近年建築士会の入会者数が減少の一途をたどっていると聞く。特にこれからの時代を担うべき若手の入会者が少ないそうだ。筆者も正直なところ、建築士会のイメージはお堅い組織というのが誠に勝手な第一印象であり、若いうちに自分から進んで参加・活動することはないだろうと思い込んでいた。
 今の時代、出来るだけ面倒な関わりは避けようと考えるのが大多数の若者の偽らざる本音であり、自ら興味のあることには積極的にコミットするが、そうではないものに対して無駄な手間や労力はかけたくないものである。特に建築家を志す若い設計者にとって、建築士という名称にはいかにも法律によって規定されただけの技術者というイメージが付き纏っている。
 神戸支部の青年委員会でも若い会員の不足が度々議題になっているが、自分と同じように何となく取っ付きにくい印象だけで、実際の取組みを全く知らない人の方が多いのではないだろうか。


思いがけない出会いと体験


 実は筆者も一昨年に入会した新参者であり、きっかけは建築士賠償責任補償制度への入会と同時期に知り合いから青年委員会の勉強会に声をかけていただいたことであった。大きな期待もなく、詳しい実情も知らないまま入会した建築士会であるが、いくつかの委員会に顔を出すうちに企画会議にも参加するようになり、講演会や勉強会など本当に自分の興味のあることを提案すれば、その通りに実現できることを体感した。
 特に自分一人ではなかなか実現が難しいことでも、建築士会を通すことでハードルが格段に低くなることが分かった。また、気軽に法規の相談ができる確認検査機関勤務の方や、施工について造詣の深い工務店の方など、身近なようで普段なかなか知り合うことのできない方々に巡り会うことができたことも予想外の大きな喜びであった。


昨年の事業を振り返って


 ここで具体的にどのようなことを行っているのか、昨年個人的に関わりのあった事業を振り返ってみたい。
 青年委員会では、身近にある自然素材をテーマとして木・石・緑・土等の多種多様な専門家を招いて講演会や勉強会を行った。石の回では造形作家の藤岡智紀氏をお招きし、古代から建築に用いられてきた石という素材の魅力を作家の視点から存分に語っていただいた。氏の動く彫刻作品からは、石が建築で使われる際の重厚で堅固なイメージが覆される。勉強会では物理的特性による素材の扱い方の多様性を学ぶとともに、色や手触りなどのテクスチャーから受ける素材の印象自体も建築的な要素として考慮すべきということを再認識させられた。
 また、建築士会の枠を越えて興味深い企画を行っている「この指とまれ」の事業では、ぼんやりとした曖昧なイメージしかない日本の伝統文化を外国人に説明できるレベルまで理解しようという主旨で、第1回は詩吟についてレクチャーを受け、実体験する機会を得た。
 伝統芸能の所作を学ぶことによって、日本人が古来より持っている空間認識の一端でも感じとることができれば望外の幸せである。このシリーズ企画は今年も引き続き行う予定であり、京都で茶道について学ぶという計画も進行している。


未知なるものの可能性を信じて


 建築業界は斜陽産業と言われて久しいが、このような時代だからこそ、建築に関わる人たちがそれぞれの職能を越えて協働することで、これまでにない新たな関係性が生まれるのではないかと信じている。特に独立してから強く感じるのは、結局のところ目先の情報や技術などよりも、人と人とのつながりこそが、かけがえのない大切なものだということである。
 今さら改めて言うまでもないことであるが、如何に小さい建築であっても一人でできることは限られており、実際は大勢の協力者の力を結集してようやく出来上がる感動的なものである。
 自分の境界を自らで決めてしまうのではなく、知らない世界に飛び込んで積極的に関わりをもつことで、新たな地平が開ける可能性も無限にあるということを若い世代にもしっかりと伝えていきたい。

 このようなことを漠然と考えつつ、パンフレット作成WGのメンバーと建築士会の未来像について侃々諤々と議論を交わす中で、昨年末に兵庫県建築士会の新しい入会案内が完成した。
 この小冊子を媒介にして、僅かでも建築士会に興味を持ってもらえるきっかけになれば幸いである。当面は兵庫県建築士会の事務局に常備されているので、是非実際に手に取ってご覧いただきたい。会員の皆様には、老若男女の会員増強ツールとして、活用いただけることを切に願っている。




パンフレット作成WG (敬称略)
正木恵子、杉本雅子、長谷川清、平内節子、槇本光展、毛利康人、筆者